1.はじめに
2018年7月に厚生労働省が発表した「簡易生命表」では、90歳まで生存する人の割合が、男性で4人に1人、女性で2人に1人となっています。人生100年時代を目前に控えて、退職後の期間を40年とする生活設計をすることが、私たちの課題ではないでしょうか。今回は、そのために在職中に準備しておきたいことを列挙します。

2.退職時に必要な金融資産の目標を設定する
まず退職後に必要な生活費の総額を見積もります。同年齢の夫婦世帯を想定してみます。60歳で退職し、その後の生活費を月額30万円とします。100歳までの40年間必要な金額は、30万円×12ヵ月×40年で1億4400万円にのぼります。――①
次に、これをカバーする公的年金や退職金の受取総額を見積もります。自分自身と配偶者の公的年金の受給金額(月額)の合計を25万円、受給開始年齢を65歳とすると、100歳までの受給金額の合計は、25万円×12ヵ月×35年=1億500万円になります。会社からの退職一時金を1500万円とすると、国と会社で合計1億2000万円を準備できたことになります。――②
このケースでは、①から②を差し引いた2400万円が60歳時までに自助努力で準備したい目標金額となります。

3.公的年金の支給額を把握しておく
老後生活のベースとなる老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給見込額は、誕生日の直前に届く「ねんきん定期便」でチェックしておきましょう。50歳以上の人は60歳まで勤務した場合の受取額が記載されています。しかし、50歳未満の人の場合、現時点の年金加入期間にかかる金額しか記載されていません。また50歳以上の人でも、その後の収入が減少すると、実際の受給額が見込額より減少する場合がある点に留意してください。
「ねんきん定期便」に記載されている手続きを行って「ねんきんネット」のサービスを利用すれば、今後の収入の増減による年金額のシミュレーションを行うことができます。是非活用してみましょう。

4.税制の優遇措置を活用した資産形成制度・商品の活用を
つみたてNISAの制度では、一定の要件を満たす投資信託商品を活用して、年間最大で40万円、最長20年間の定期的な積立投資を行い、そこから発生した運用収益や分配金には課税されない制度です。
個人型確定拠出年金(iDeco)は毎年積み立てる制度ですが、60歳まで引き出すことはできません。その分掛金が所得から控除され、所得税・住民税が軽減されます。金融商品のうち、個人年金保険で一定の要件を満たすものは、iDecoと同様に所得税・住民税が軽減されます。税制の優遇措置を活用して上手に資産形成を行ないましょう。

5.目標額に到達しない場合は60歳以降も収入を得る
例えば60歳以降65歳まで正社員として働く場合、一般的に今までより収入が減少しますが、厚生年金の加入期間が60ヵ月増えることになります。その結果65歳以降の老齢厚生年金の額が、若干増えることになります。ただし60歳以降の月収が、それまでの月収と比較して25%を超えて減少した場合、雇用継続基本給付金が支給されます。この給付金は、60歳以後の賃金の最大15%が支払われ、減少幅を軽減してくれる制度です。
「個人事業主」として働くことも選択肢です。定年がなく生涯現役を続けることができます。65歳以降どんなに収入を得ても、厚生年金を減額されることはありません。
6.在職中に資格や技能を身に付ける
今後長い期間働くことを想定する人は、資格や技能を身に付けることにより、自分自身の労働市場での価値を高めることが武器になります。雇用保険の一般教育訓練給付金や専門実践訓練給付金を活用すれば、資格を取得したり、技能を習得するための学校に通う費用が一定額支給されます。
7.公的年金の繰下げ支給を検討する
65歳以降も継続して収入がある、前記の資産形成により65歳以降の生活資金が準備できた、などのケースでは、公的年金の受給開始年齢を65歳よりも繰り下げることを検討します。65歳からの公的年金は1ヵ月単位で繰り下げることができ、1ヵ月繰り下げるごとに年金額が0.7%アップします。最長である60ヵ月の繰り下げを行うと、年金額が42%アップします。また、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げることができます。例えば、老齢基礎年金は原則通り65歳から受給し、老齢厚生年金は68歳から受給するなどの方法が可能です。

8.さいごに
100年人生を乗り切るためには、皆さんの身の回りにある制度を最大限に活用することが求められます。専門家のアドバイスを受けながら、プランを実行していきましょう。