医学的に正しい入浴法とは

体を温める最も手軽で効果的な方法といえばお風呂です。温泉療法専門医の早坂信哉さんによれば、約14,000人の高齢者を対象に調査した結果、毎日湯船につかっている人はそうでない人に比べ、3年後に要介護になるリスクが29%も低かったと言います。お風呂に入ることは、健康寿命を延ばすことにもつながるそうです。そこで早坂さんに医学的に効果が認められている、健康に良いお風呂の入り方を教えてもらいましょう。

1.ヒートショック対策として、脱衣所を温めておく

ヒートショックとは急激な気温の変化によって血圧が上下し、心筋梗塞や脳梗塞といった心臓や血管の重大な  疾患を引き起こすことです。ヒートショックは入浴中に起こりやすく、入浴中の年間死亡者数19,000人の多くはヒートショックが原因と考えられています。 寒い冬は入浴前に脱衣所の暖房をかけて、リビングとの温度差が5℃以内になるように調整しましょう。同時に湯船のふたを開けておき、入浴直前にシャワーを数分間出しっぱなしにして湯気を立て、浴室を温めておきましょう。入浴前にコップ1杯の水を飲むことも、ヒートショックの予防につながります。

2.湯温は40℃以下に設定する

冬は熱いお風呂を好む人も多いですが、医学的に見ると42℃以上のお湯につかると自律神経が興奮モードになってしまい、疲れが取れにくくなったり、眠りにくくなったりしてしまいます。のぼせや脱水症状等のリスクも高まります。そうしたリスクを下げるためには、湯温を40℃以下に設定することが大切です。ぬるめの温度設定のように思えますが、10~15分つかれば十分に体が温まります。それでもぬるく感じる場合は、41℃までなら湯温を上げても問題ありません。

 3. 半身浴ではなく全身浴で、10~15分つかる

一時期半身浴がブームになりましたが、医学的には全身浴のほうが健康効果が高いことがわかっています。肩までしっかりお湯につかり、体を芯から温めてください。ただし、全身浴では息苦しく感じる等、苦手な人は無理せずに半身浴でつかりましょう。

お湯につかる時間は10~15分が目安です。長風呂は健康にいいというイメージがあるかもしれませんが、長くつかりすぎると、心臓や血管に負担がかかるリスクもあります。入浴時間は短めにして、毎日お風呂につかることを意識するとよいでしょう。

4. 疲労回復には硫酸ナトリウムを含む入浴剤を

お風呂につかる際、水道水をそのままわかしたお湯は肌への刺激が強いため、入浴剤を入れて刺激をやわらげましょう。特に疲労回復には、血流促進と疲労物質(筋肉等にたまった老廃物)を取り除く効果がある「硫酸ナリウム」を含んだ入浴剤がおすすめです。

5. 就寝の1~2時間前に入浴する

「体が温まると眠くなるから、お風呂は寝る直前に入る」という人もいるかもしれませんが、実は体温が高い状態だとなかなか眠りにつけず、睡眠の質も低下しやすいことがわかっています。入浴後は手足から熱が徐々に放出され、約1時間半後に急速に体温が下がりますが、このときに心地いい眠りが訪れます。つまり、就寝する1~2時間前に入浴すると、質のいい睡眠につながるわけです。

厳しい寒さから体を守るためにも、医学的に正しいお風呂の入り方で体をしっかり温めて健康を維持していきましょう。

 

監修者 早坂信哉さん

温泉療法専門医、博士(医学)、東京都市大学人間科学部教授。一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所

所長、一般社団法人日本銭湯文化協会理事、日本入浴協会理事。生活習慣としての入浴を医学的に研究する第一人者。

メディア出演も多数。 著書に『最高の入浴法』(大和書房)、『たった1℃が体を変える ほんとうに健康になる入浴

法』(KADOKAWA)、『入浴検定 公式テキストお風呂の「正しい入り方」』(日本入浴協会/共著)がある。